やはりヴィーカの結婚相手は、おじいさま決める人だそうです。
ただし、
現時点ではまだ決まっていない。
決まっているのは、ヴィーカが二十歳になったらお見合いをするということだけ。
その辺のこともヴィーカは地竜家では話していないらしく、思わず「えっ」と声を上げてしまうユイシィにエレさんとジェンはしーっと静かにするように止めます。
会ったこともない人と結婚するということに驚いているミリュウさんに、ヴィーカは竜族だって里の偉い人が子竜の婚約者を決めることがあるんだから珍しくないだろうと言うと、ミリュウさんはそれでも好きな人ができたら好きな方を選ぶ、と。
それに対し、ヴィーカは――
「じゃあ、あんたは私を選べる?」ミリュウさんはもちろんだと即答しようとしますが、それをヴィーカが
「ムリだね」と一刀両断。
ヴィーカはリオティールの跡継ぎで、夫には一緒に領地を治められる器量を求める。ミリュウさんにそれがあったとしても、どこの誰か出自を表に出せないような者が領主の伴侶にはなれない。
なにしろ
ヴィーカ自身が盗賊の娘。夫にはそれを払拭するだけの地位と家柄がいる。それに――
「あんたは好いた惚れたで竜術士をやめるなんてできないだろ?」ヴィーカのその質問に、ミリュウさんは今度は少し悩みながらうんと頷きました。
そしてヴィーカも領主になることをやめるわけにいかない。それが祖父母の願いだから。
実の孫とはいえ、盗賊の娘を育て、領主の跡取りと世間に認めさせるなんて並みの苦労ではなかったはず。それがヴィーカの幸せと信じて跡取りにしてくれた2人を、ヴィーカは裏切ることができない。
もちろんそれは仕方なくではなく、ヴィーカ自身が本当に祖父母を大切に思っているから。
つまりヴィーカはミリュウさんを選べないし、ミリュウさんもヴィーカを選べない。
「だから、この手の事、考えるのはやめとこう」それがヴィーカの出した答え。
そんな、と声を上げようとするジェンとユイシィを、エレさんは止めます。
そしてヴィーカは改めてミリュウさんに国境まで送ってくれるよう頼んで帰りました。
でもエレさんはヴィーカの辛そうな表情も、ミリュウさんの落ち込むどころか何か強く決意した
ような表情も見逃しませんでした。
2人が去った後、慌てるジェンとユイシィにエレさんが落ち着くように言います。
「私にはミリュウがあきらめたようには見えなかったわ」と、そう言うエレさんはなんだかとっても晴れ晴れとした笑顔でです。
ミリュウさんは宝物を取り上げられた子供みたいな顔をしてたと、ならばミリュウさんがこの後どうするかは補佐竜であるジェンの方がよくわかるんじゃないかと。
エレさんにそう言われ、ジェンはすぐに帰りました。
ミリュウさんが諦めてなくても、ヴィーカはランバルスさんに似て頑固だから、よほどのことじゃないと考えを変えてくれないのでは、とユイシィは心配します。
エレさんにそれがランバルス自身だったらどうするかと訊かれ、ユイシィはおいしいお弁当を作って、必ずできるだけ早く帰るよう約束して見送ります、と答えます。
でも結婚の話は別だと。好きな人がいるのに、たとえ家族のためでもあきらめて別の人と結婚なんてそんなの――と、思わず涙ぐむユイシィの頭をぽんと撫で、エレさんも私もそう思うと言いました。
そしてヴィーカには自分が話すと言って、エレさんは水竜家へ向かったヴィーカの後を追います。
エレさんの言葉に不安が消えたのか、ユイシィも笑顔に戻って帰ることに。
ヴィーカを追いかけるエレさんは、どこかで近道して追い抜かないとと思っていましたが、思ったよりもヴィーカが歩を進めておらず、すぐに追いついてしまいました。
思わず慌てて木の陰に隠れます。
とぼとぼと歩き、溜息をついていた後ろ姿に、ヴィーカがずいぶん落ち込んでいることを感じ取ります。
それは、それだけヴィーカがミリュウさんのことを思っていたということで。
けれどエレさんはやはりショックを受けているというより、微笑ましく思っている感じです。
しかし、ヴィーカにあっさり見つかります。
そしてユイシィにもう何日か留まるように説得を頼まれたのではと訊かれ、エレさんはそれをすっかり忘れていたことを思い出します。
そしてエレさんは少し考え、ジェンとユイシィにはミリュウさんとヴィーカの会話を聞いていたことは秘密だと言ったのに、ヴィーカ本人にさっきの話を聞いていたことをバラしました。
すると、今までずっと気丈に振る舞っていたヴィーカが真っ赤になってへなへなとへたり込みます。なんだか新鮮です(苦笑)
エレさんは聞くつもりも、聞いたことを言うつもりもなかったけど、ヴィーカに聞いてもらいたい話がある、と。
「実は私…ミリュウが好きだったの」突然の告白にヴィーカは当然驚きますが、
「――と、思っていたの」そう続けたエレさんの言葉にぽかんとします。
エレさんはそのまま自分のことを話しだします。
初めてミリュウさんに会った時、昔好きだった人に似てると思った。
今から思えば黒髪以外それほど似てるわけじゃないけど、もしかしたらなくした恋の続きができるような気がしたのかもしれない。
その人は周りが勝手に決めた婚約者で、はじめは大嫌いだったけど、ずっと優しく強く誠実で、
大切に守ってくれて、いつの間にかエレさんもその人が好きになっていた。
でもエレさんはその人につっけんどんに接することが当たり前になっていて、それを改めることができなくて気持ちを伝えられなかった。
その人が、亡くなるまで。
後悔して後悔して、後悔しつくしたはずなのに、エレさんはまた同じ事をしているのに最近気がついた。しかもそれはミリュウさんじゃない。
ずっともやもやしていたけど、ミリュウさんがヴィーカのことを好きだと聞いてはっきりした。
「おかげで、今度は間違えずにすむかもしれない…」すっきりしたエレさんの笑顔に、ヴィーカは溜息をつき、自分を説得しているのかと訊きます。
エレさんなら、ヴィーカの立場もわかるでしょうに、と。
でもミリュウさんは諦めていないとエレさんは言って、ヴィーカに
「うれしい?」と楽しげに聞きました。
うれしいと思うなら、ヴィーカも諦めきれないのが本音のはず。
「だったら、後悔しない方を選ぶべきじゃない?」それは、エレさんだからこその言葉ですね。
ヴィーカは少し困ったようにしつつも、
「伝説の竜都を見つけ出すより、大冒険になりそうだ…」といつもの不敵な笑み。
本当は誰かに背を押してもらいたかったのかもしれませんね。
ほら、頑固なのが父親譲りなら、諦めの悪さは母親譲りですから(笑)
その夜、地竜家では和やかにヴィーカのお別れ会が開かれますが、ミリュウさんのことも、結婚のことも一切話はなしです。
そして翌日。
ユイシィはヴィーカだけでなくミリュウさんの分のお弁当も作り、ヴィーカに遺跡調査が終わったら必ず来るようにと約束の確認。
そしてやって来たミリュウさんは、送って行くだけのはずなのにいつもの格好ではなく、しっかり旅支度。
ヴィーカの故郷まで送って行くつもりのようです。
結婚相手を決めるのがおじいさんなら、会わなきゃはじまらない、と。
何のことか事情をさっぱり知らないランバルスさんは驚いて青くなりますが、ユイシィに今は黙っててくださいと止められます。
そしてヴィーカも、ミリュウさんがそこまでやるって言うならやるだけやってみな、とミリュウさんの手を取りました。
ユイシィ以外はよく事情を呑み込めないまま、笑顔で旅立つヴィーカとミリュウさんを見送りました。
詳しいことは、また、ヴィーカが帰る日に――。
まぁ。前途は多難すぎでしょうが;;
ただでさえ娘を盗賊に取られたヴィーカの祖父母が、大事な孫をどこの馬の骨とも知れない輩に簡単に渡すとは思えません。それは2人がヴィーカを大事にしていればしれいるほど難しいことですし、仮にミリュウがヴィーカの夫に納まったとしても、よほどの手腕を発揮しないと周囲から領主としての信用まで失くしかねませんからね;;
何かやたらと気に入られるようなことをすれば別ですが、時間をかけてゆっくり説得するしかないですよね。
そして、今回、個人的にはエレさんの心情が聞けたのが良かったです。
ああ、そういうことか、とすとんと落ちました。
私がミリュエレを推して来たのは、ミリュウさんの前では乙女になるエレさんが可愛くて、2人が並んでいる姿が微笑ましくて好きだったからですが、それはエレさんの理想だったからなのでしょうね。
好きな人の前では、おしとやかで素直な、可愛い自分でいたかったという理想。
けれど理想は理想、現実は現実だった、と。
でも自覚したところで、今度はどっちも素直じゃないという(苦笑)
しかし、遠慮なく言い合える相手というのもなかなかいるものではないのでいいんじゃないでしょうか。
とにかくカディエレの受け入れ態勢は整いました。いつでもバッチ来い!!
いや、でもこれも石動先生が時間をかけてじっくり描いて来てくれたお陰です。
基本は公式CP推しですが、納得できないと公式でも受け入れられないことは多々ありますから。
でも、エレさんの今があるためには、ミリュウさんの存在も絶対に必要でしたね。
最初はエレさんはカディオさんのことを故郷の仇くらいに思っていたわけですが、それがだんだん変わって来たのは間にミリュウさんがいたからですし、何より、ミリュウさんを好きだった人に重ねたことで、何もかもを失ったエレさんの心が救われた部分って絶対にあると思うので。
さて、エレさんは素直になれるのかな!?(笑)