マシェルの故郷はマシェルが子供の頃はとても美しい場所だった。
しかしたくさんの精霊が連れて行かれてしまい、今でもまだ荒れ果てたままらしい。
少しは良くなって来ているとカディオさんが言っていたけど、ダグが帰りたい場所とは似ても似つかないはず。
そんな所に連れて行ったらよけい悲しくなるんじゃないかとマシェルは辛そうに言いました。
すると外からカディオさんが、聞いてみてくれと話し掛けてきます。
俺たちの故郷は見る影もないが、よく似た場所があるからその地でもいいかどうか。
似た場所で、フェルリさんも安定して居られる場所で、みんながいる場所。
―—そう、
コーセルテルです。カロアスは何を言っている、ここは竜都の跡地だろうと言いますが、呪いをかけてずっと留まっていたわりに現状は全然把握していないんでしょうね。
そもそも把握してたら邪魔しに出て来てないですね;
外ではカディオさんがみんなに歓迎の準備をしようといい、サータたちは大喜び。
メリアさんがその前に、と地下書庫にいるエリーゼと暗竜術で空間をつないでエレさんを呼びます。
カロアスは渋々ながらもコーナの言うことに従って現実の世界に出て来ました。
けれど、あいつらが呪いを必要としないなら俺の役目も終わりだ、今の世にいても意味はない、もう人の魂が行くべきところへ行こうかと――そうコーナに話した所で、目の前にエレさんが。
エレさんが「お父さ…」と言いかけたので、カロアスは彼女の父親にそっくりなのでしょう。
子孫との思わぬ出会いにカロアスも驚いています。
クレイベルさんの所にいたアータたちも行こうとすると、クレイベルさんも一緒に行くと言いました。
もしものためにと言われ、アータたちはちょっと不安そうにしますが、クレイベルさんは別に封じたり消し飛ばしたりするわけじゃないと言います。
この地に住まう精霊は皆、クレイベルさんの庇護下にある。だから彼もそのひとりになる。
竜王の竜術士の教育係をしていたクレイベルさんにとっては彼も大事な教え子。
「今度は守ってみせましょう」彼女の優しい微笑みに、アータたちも笑顔になりました。
そしてフェルリさんは、マシェルたちと一緒に行くのではなく、一度クレイベルさんの所へ戻ると言います。
あの頃は、彼女にすらダグのことを話せなかった。彼女はダグを悪く言う精霊ではないと知っていたのに。
でも、今は話したいことがいっぱいある。
そんなフェルリさんを見送り、マシェルとナータも現実に戻ろうとすると、そこへ暗竜の長が現れました。
「本当にみんな助けるなんて、夢にも思わなかった」ここは夢の中なのに? と、ツッコミを入れるところでしょうか?(苦笑)
君たちが無事なのがなにより、良い夢を見せてもらったと微笑みますが、直後にセレンディは表情を曇らせます。
そして、もしできる事なら、とマシェルに何かを頼もうとしますが、そこへラシェが出てきて、
「あなたの夢はかないません」と話しも聞かないうちに否定しました。ラシェは彼の願いを知っているようです。
「この星の上に暗竜の里をつくりたいと言うのでしょう? ダメです! 何度この星に滅びの危機をもたらしたのか忘れたのですか!? 暗竜の先祖返り、不死の暗竜セレンディ」強く言ったラシェに対し、セレンディはわかっているよと諦めたように微笑みます。
「かなわぬ夢であり、かなえてはいけない夢だって」そしてセレンディはナータとマシェルにありがとうと、いつかまた夢でいいから会いたいねと言って去って行きました。あの子にも元気でね、と――。
どういうことなのかマシェルがラシェに声を掛けると、ラシェが色々話してくれます。
セレンディは暗竜の中でも特殊だけど、
暗竜は元々この星のこの地上で生きるには不向き。
竜術士の守りがあっても一度に数人くらいしか地上にいてはいけない。
竜都は大地の精と星の五竜の守りもあったからもう少し何とかなっていたけど、暗竜がいると空に穴が開いて、空気が抜けたり星にとって害になるものが入り込んで来る。
けれど、
月の術資質を手に入れると不思議なことにその害がおさまる。
伝承などで昔から伝わっていたけれど、アゼットが月の術資質を得たことでそれが証明されてしまった。
そのせいで暗竜たちは諦めていた夢をまた見たくなってしまった。
月の術資質を求める者たちと結託して、フェルリさんやダグ、ラシェのことも利用しようとした。月の精霊を呼ぶために。
それがダグの嫌いな暗竜。
ついでにもうひとつ、アゼットは月の力にしばられて、暗竜が司る空向こうの世界へ帰れなくなってしまった。
命がつきて魂になっても帰れない。生まれ変わることもできず、世界を壊しかけた悔いを負ったまま、星と月の寿命がつきるまでずっとこのまま。
それを聞いたマシェルが蒼白の表情で月の術資質を取る方法はないのかと訊くと、ラシェはあっさりとあると言います。アゼットがそれをしなかっただけ。
他の暗竜の力を借りて一緒に星を出て空向こうの世界へ行き、月の影響を振り切れる所まで行けばいいだけ。戻って来れば元の月の術資質をもらう前の状態になる。
でもそれって生きている間にしないとダメってことですよね?
ラシェはナータを見て、
「その子がどうするかは、その子次第だけどね」と言います。
するとそこでカータやハータがマシェルたちを呼ぶ声が。
中々起きないので心配になちゃったんですね。
父様と母様をよろしくねと言われ、マシェルはラシェはどうするのかと心配しますが、ラシェはアゼットが放っておけないから一緒にいるけど、人生99年で大往生したから悔いはまったくないと笑い飛ばします。
ラシェはいつも14~15歳くらいの見た目で現れるから、てっきりアゼットの暴走を抑えたすぐ後くらいに亡くなったのかと思ってたら……めっちゃ長生きだったんですね。
しかしラシェは、リュシーナには行きなさいと言います。
今度こそちゃんと生まれて生きるのよ、と。
「気に入った竜術士さんがいるんでしょ?」そうラシェに言われると、リュシーナは素直に行きました。
そして、マシェルとナータも目覚めます。
マシェルの家から少し行った湖のほとり。
フェルリさんに呼ばれ、ダグは目を覚まします。
そして目に入ったのは、故郷によく似た美しい景色と、その中で仲良く微笑み合う旅の月イルベックと、眠る月コーセルテル。
驚くダグに、フェルリさんは微笑みます。
「ここはあなたの願いがかなった場所。私と一緒にこの地に、コーセルテルに、いてください」ダグもああと微笑んで頷きました。
もうこれで彼が黒精霊に戻ることはないでしょう。
仲良く寄り添う2人の姿を見て、ランバルスさんがちょっとうらやましいなと呟きます。
それを聞いたユイシィも――と、ユイシィの中にふぅっと何かが入りました。
いや、何かって
リュシーナの魂でしょうけど……ちょっと待って!?
リュシーナの魂がユイシィの中に入った!? つまりリュシーナはユイシィの子供として生まれ変わるってこと!?
え……? あの、え……? えぇ~~~~~!?
いや、だってまだその前の段階にすら至ってないでしょ!?
まぁ、リュシーナが気に行ったのがランバルスさんだっていうのなら、その1番竜であるユイシィを選ぶのは当然と言えば当然なんですけど。
ど、どこまで深読みしていいんだ……!?
ダグがコーセルテルに居てくれるようで一安心したマシェルと子竜たち。
マシェルは子竜たちを見つめ、彼らが大きくなった時にみんなの願いがかなうよう思います。
一番の心配事も…とマシェルが思ったところで、ナータが自分はマシェルのことが一番心配だと言います。
「―—けど、自分の事もちゃんと――…考えている」それを聞き、マシェルは知ってるよと微笑みました。
いつか大きくなってどこへ行っても、何をしていても、僕は君と君たちの竜術士でありたいな。
そんなマシェルの願いも叶うといいなと切実に思います。
最期までコーセルテルにいていいんだよ…! でもマシェルが外の世界を見たいというならそれを止めたくはないですね。